台湾から帰ってきました。前が2004年の総統選のときですから、実に五年ぶりの訪問です。
さぞおセンチになろうかと思いきや、様々を眼前に置きながら、ただ眺めていただけであったような気がします。
死病に罹った親類のことも、父親の新しい家庭や、面影を一片も残さないかつての家、変化した街も人も、それらがそこにあるというだけで、私はぼったくりの商品を買わされるような日本人観光客と何ら違いはありませんでした。
それら一切は、私とは関係のない場所で起こる、関係のないことに過ぎません。
それよりも私はいま、とても幸福を感じているのです。
帰省してしばらく経ちましたが、とにかく気持ちが落ち着いています。
時折、福岡の友人が勧めるように東京から出戻る考えも浮かびます。友人たちには、もう少、しがみついていたい、と答えていますが、実際がどうなのか、自分自身でもわかりません。
私は一年のうちで、いまのこの季節が最も好きです。雨は少なく、空気は澄んでいて木々は実り多く、なによりも町中をただよう金木犀の甘い香りが心を落ち着かせています。
自動車の教習を終え、小高い教習所の丘から藍に霞んで行く住宅地を眺めていると、小説でよく言うような、さも時が止まった感覚を覚えます。
このごろ少しだけ、生涯、というものの輪郭を見たような気でいます。
明日から、オリオン座流星群が見ごろを迎えるというニュースをテレビで報じていました。
次に見られるのが70年後というので、ぜひ観測に興じようかと思っています。